行政書士試験の行政法科目

行政法科目は、
行政法からは五肢択一14問56点および多肢択一2問16点
地方自治法からは5問20点
の配点になっており、合計92点です。
例年は五肢択一が第8問〜26問、多肢択一が第42問〜43問となっています。

試験300点満点のうちの92点なので、配点はすべての科目中、最大です。
ここで確実に点を取れることが、合格の必要条件になります。

また、行政法の知識は実務でも重要です。
行政書士がする書面作成代理行政書士がする申請代理などのシーンで必要となってきます。
その意味でも、しっかり勉強しておきたい科目です。

具体的な出題内容

行政法というのは、行政に関する法の総称を指す講学上の概念であって、行政法という名称の法律が存在するわけではありません。
とはいえ、行政書士試験の対象が、膨大な数に上る行政法規のすべてであるわけではなく、主要な法令に限られます。
出題範囲としては、行政法の一般原則、行政組織法、情報公開法、行政手続法、行政事件訴訟法、国家賠償法などが挙げられます。
これに加えて、地方自治法も出題されます。

こうして挙げてみるとずいぶんあるなあ、という印象ですが、出題内容はそれほど陰険なものではなく、非常に基本的な内容だと思います。
ただ、個々の問題自体は簡単ですが、やはり量が多い分、似たところを間違って覚えてしまう、みたいなことがあって、そこらへんは要注意かな、という印象です。

具体的な問題をいくつか見てみましょう。

無効な行政行為に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。

1,無効な行政行為は、正当な権限を有する行政庁または裁判所が無効の判断をして初めて効力を失う。
2,無効な行政行為というためには、その行為に内在する瑕疵が重大な法規違反であることのみで足り、瑕疵の存在が外観上明白であることを要しない。
3,行政行為の無効を主張するには、法令で定められた期間内に争訟を提起することが必要である。
4,無効な行政行為の転換には、その旨の裁判所の宣言が必要とされる。
5,錯誤による漁業の免許は、当然に無効となるものではない。

(平成4年第33問)

これは行政法総論からの出題です。
初めて行政書士試験の問題を見る、という方には難しいかもしれませんが、問われていることは基本的な事柄です。
すなわち、行政行為の評価としては有効・無効とがあり(ちなみに違法な行政行為は取り消されるまで有効)、行政行為に「重大かつ明白な瑕疵」があるときのみ行政行為は無効となる、本問で問われているのは、この緑字の部分だけです。

ここが分かっていれば、1、2、3のいずれも間違いだ、というのは簡単に分かるはずです。
4はちょっと違う知識が含まれていますが、裁判所の宣言は不要ですから間違いです。
従って正解は5、となります。
多くの問題はこういう感じで、基本的知識で3〜4個の選択肢は消せる、というパターンが多いです。
選択肢5だけを見ると、「そんなん知らんがな」という感じですけれど。

細かい知識が要求される出題もあります。

次のうち、行政不服審査法が明文で要求する審査請求書の記載事項ではないものは、どれか。
1,審査請求人の氏名及び年齢または名称ならびに住所
2,審査請求に関わる処分
3,審査請求に関わる処分がなされた年月日
4,審査請求の趣旨及び理由
5,審査請求人が代理人によって審査請求をする場合の代理人の氏名及び住所

(平成14年第16問)

ちなみに答えは3ですが、こうした問題も恐れるに足りません。
この手の問題は頻出されているか、あるいは大体押さえどころとして著名なポイントか、そのどちらかです。
いきなり聞かれて分かるわけはありませんが、事前に準備することはそれほど難しくありません。

むしろ難しいのは、上にも少し触れましたが、類似の出題です。
例えば、行政不服審査法の審査請求人の地位は相続されるが情報公開法の開示請求権は相続されない、とか、ある法規では期間が30日だが別のある法規では期間が60日である、など、そういう点ですね。
こうした「間違いやすいポイント」は自分で探して自力で潰していく必要があります。
ここが一番大変でした。

勉強方法

出題例をご覧になれば分かるかと思いますが、行政法の場合、教科書(参考書)が非常に重要になります。
良い教科書で体系的に学ぶ、という姿勢が必要です。
そのほうが問題理解が簡単になります。
もちろん過去問も重要ですが、過去問だけで対応できる科目ではない、ということです。

教科書はいろいろ市販されていると思いますが、私の知っている範囲では、
国家試験受験のための よくわかる 行政法 (神余博史 自由国民社 2,625円)
が一番良いと思います。
行政法から地方自治法まで、これ一冊で行政書士試験に十分対応できます。
文章は読みやすく、かつ明晰です。

知っている中ではこの本が一番良い、というのであって、実際はもっと良い教科書があるかもしれません。
ただ、一般論的なことだけ言っておくと、あまりにも薄い本は記述が簡略すぎて、初めて勉強をする人にとってはさっぱり分からない、ということは結構ありがちです。
憲法・一般知識は薄めの本がいいんですけれど(すでに説明したようにああいう出題なので)、体系理解が要求される行政法・民法あたりは、薄すぎず厚すぎず、分かりやすく書いてありながら細かくなりすぎない、みたいな本が良いです。
受験予備校出版の本は、あまりオススメではないと思います。個人的感想かもしれませんが、意外と読みにくいです。どこのどの本とはいいませんが、書店に平積みしてあっても、あんまり信用しないほうが良いです。
そもそも行政書士試験に関する限り、平積みしてる本に、良い本はほとんどありません。
ん? 上で薦めた本は書店に平積みしてあったような……
しかしあの本は行政書士試験のコーナーではなかったような気が。まあいいか。

一番良いのは、教科書を買う前に過去問3年分に目を通しておくことです。
ざっとでいいんです。
もちろんその時点では点なんか取れないわけですが、ざっと目を通しておけば、教科書を買うときに「これで足りそう?」「これだと足りなさそう?」というのがなんとなく分かります。
一番不味いのは下手な教科書を買ってしまって、そのうえその本に固執してしまう、というパターン(一番ありがちな不合格パターン!)なので、そこだけは避けましょう。

これらの教科書・参考書は実際の書店で、自分で手に取ってから購入された方が良いかと思います。

過去問集も必要です。
教科書を一単元読んだら過去問やって、また教科書を進めて、みたいな感じです。
過去問は、いつもの早稲田セミナーSuccessシリーズがいいと思います。

行政法に関しては、六法全書の重要性は憲法や民法に比べると、やや低いようです。

過去問はSuccessの場合、20何年分かで約300問収録されているはずで、問題数としては十分です。これを3回回せば合格ラインです。
勉強時間としては、だいたい200時間といったところでしょうか。